クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
父には一カ月だけという条件で、どうにか帰省を伸ばすことを認めてもらった。
理由は、仕事が繁忙期ですぐに辞めさせてもらえないからということにして、この秘書への登用の件は隠していた。

本当のことを言って、私に専務秘書など務まるのかと疑われるのが嫌だったからだ…。

常に周囲から視線を受けている父には、苦労して大和撫子として育て上げた娘がアルバイトとして安月給で生きていることが見過ごせなかったのだろう。

それなら、さっさと自分が認めた相手に嫁がせてしまうのがいい。

そうして設けられたのが、今回の縁談に違いなかった。

だから、専務秘書としてしっかり務め挙げられれば、父に認めてもらえる。
本当の意味で、父の人形から脱することができる。

この猶予を与えられた一カ月の中でどうにか秘書業務をこなせるようになって、父に胸を張って伝えたかった。
そのために、一日でも早く業務をマスターしたかった。

そんな私の焦りに気付いてくれたのかもしれない。
専務は私をじっと見つめ、頬に触れていた手で私の頭を優しく撫でた。
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