仮面
光平は焦った。


これから人生を取り戻すつもりだったのに、こんな状態じゃ勉強だって手につかない。


それじゃ叔父、叔母の家にいるのと変わらないようなものだった。


苛立ちを払拭するために光平が取った行動は夜の街を歩くことだった。


夜は自分の顔も、相手の顔も曖昧になる。


自分のことも相手のことも気にしなくてよくなるようで、気が楽だった。


それに通り抜けていく夜風がとても心地いい。


こうして夜に1人で散歩をしていると、どんな人間でも最後には1人なのだと思えた。


自分だけじゃない。


みんな結局は孤独の中で生きているんだ。


集団の中の孤独。


誰もが抱えているものを、自分はもっと明白に抱えている。


それだけ。


そう思って自分の苛立ちを押さえ込み、夜の公園へと足を踏み入れた。


公園には誰の姿もなく、オレンジ色の街頭がむなしくベンチを照らし出していた。


少し休憩したら帰ろう。


そう思ってベンチへ近づいて行ったとき、生垣の奥からよく太った野良猫が出てきた。


野良猫は人になれているのか光平の姿を見ても逃げ出さず、ふてぶてしくその場で毛づくろいをし始めた。
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