仮面
炎は一瞬にして家を包み込み、クルミが庭から逃げ出してくるのを見た。


ゴウゴウと音を上げて燃え盛る炎に恵一の心臓は早鐘を打ち、背中につめたい汗が流れていった。


周囲は昼間のような明るさに包まれて、風が熱を運んでくる。


リナが家の中にいる!


ハッと気がついたとき、クルミが倒れこむのが見えた。


咄嗟に視線をそちらへ向けると黒い服を着た男が、倒れたクルミを引きずっていくところだった。


なんだなんだなんだ?


今日はリナの寝顔を盗撮して終わるはずだったのに、どうしてこんなことになってるんだ?


燃える家の裏口からひとりの人物が転がり出てくる。


その人は体中火にまみれながら悲鳴を上げ、ダンスを踊るように暴れ狂う。


あれは……リナ?


炎に包まれているため顔は見えない。


だけどその人物が持っている布製のバッグには見覚えがあった。


全身から血の気が引いていく中、恵一は無意識の内に踊り狂うリナの写真を撮影していたのだった。
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