追憶ソルシエール
「……雨?」
空を見上げれば、午前中には想像もできなかった空模様。どんよりとした薄暗い雲が頭上を覆っている。ずっと俯いてばかりだったから全然気づかなかった。
「わー、明日の朝までけっこう降るらしいよ」
スマホ片手にそう呟く西野くんの横で、止まって手のひらを空に向ければポツポツと雫が落ちてくる。
ほら、と見せられたスマホの画面。その天気予報アプリには、明日の明け方まで雨マークが表示されている。
「天気予報晴れだったのに、」
ぽつりと不満を零して屋根のある駅まであと少しの道を歩けば、ふっと笑われる。
「そんなん信じるから」
「天気予報信じない人なんている……?」
「あくまで予報じゃん。岩田は鵜呑みにするから悪いんだよ」
なんだか小馬鹿にされた気分。ムッと軽く睨めばその視線に気づいた西野くんはわたしを一瞥した。
「じゃー傘持ってないんだ」
「うん、雨降るなんて思ってなかったし」
「これ使えば?」
屋根のある駅に到着して雨を凌ぐ。頭に冷たい衝撃が落ちることはなくなった。けれど、すぐに西野くんの放った言葉に衝撃を受けることになる。差し出されるそれに視線を落とせば、思わず「え、」と声が漏れた。
「だってこれは西野くんに返しに来たもので、」
透明なその傘。昨日借りてついさっき返したばかりのそれは、ここでわたしが借りたら意味がない。