追憶ソルシエール
自分から聞いてきたっていうのに興味なさげな返事に、少し呆れてしまう。気になるなんて言っておきながら、単なる世間話のひとつのように聞き流された。
こんな空気になるなら言わなくてもよかったかもしれない。そう思っていれば、「てかダメじゃん」と言う声が降ってくる。
「彼氏いんのにほかの男と帰ったら。怒られるんじゃね」
「それはっ、西野くんが帰ろって言うからで」
「あーそういえばそうだったわ」
反省する気もさらさらないように、「ごめんごめん」へらりと笑った軽い言葉だけの謝罪を受け取る。
「いーよ。返したらすぐ帰るから」
やっぱり西野くんは落ち着いていて余裕で満ちている。西野くんが発する一言一句に耳を傾けて、常に神経を張り巡らせているわたしとは、どこを切り取っても大違いだ。
駅が視界に入る。
道がわからずアプリを頼りにした行きよりも、西野くんに着いていくだけの帰りの今のほうが道のりが長く感じた。そして精神的体力もかなり削られた気がする。
西野くんとはどこまで一緒に帰るのだろうか。最寄り駅も同じだから、このまま電車も一緒に乗るのかもしれない。
「あ、」
斜め上から聞こえた声に、顔を上げる。
と、頭に冷たい感覚が落ちてきた。