追憶ソルシエール

こんなに心配してくれている那乃に、駅まで一緒に帰ったことなんて言えない。ましてや傘を返せなかったことなんて。万が一知られてしまったらもっと心配をかけてしまう。だから、絶対にバレないようにしないと。




「てかさ、よく平然と話しかけてこれるよね西野も」



罪悪感に苛まれていれば、那乃の疑問が立て続けに飛んでくる。




「だってあれ以来話してなかったでしょ?」

「うん」

「どんな心情なのか気になるわ〜」

「それは、わたしも……」



よくわからない。西野くんの気持ちは。




別れたあとは一度も話さなかったし、中学の卒業式以降見かけることもなかった。それなのに、偶然だったとはいえ、傘を貸したり駅まで一緒に帰ったり。そんな行動をとる西野くんは謎だ。




「あーあー、現代文得意だったらあいつの気持ち分かったのに」

「いくら得意でも人の心の深層まで探るのは難しそうだけど……」



かくいうわたしたちは理系クラス。現代文のように読解するのは得意じゃない。


人の心を見透かすには、どのくらいのレベルまで極めなければいけないんだろう。まずは心理学の勉強を始める必要があるかもしれない。
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