追憶ソルシエール
平穏オパールグリーン

駅のホーム。
いつもと同じ時間。いつもと同じ5号車の前。




「おはよ」



あと数分でやってくる電車を待っていれば、雑音に紛れて耳に届いた、落ち着いた声。




「おは、よう……」



欠伸を堪え潤んでぼやけていた視界が、一瞬にしてクリアになる。


振り向けば、そこには数日ぶりに見る西野くんの姿があった。




「なんでそんな驚いてんの」

「だって……今まで電車通学だった?」



高校に通い始めて2年目。つまり、その期間中ずっと電車通学をしていたわけだけど、今まで一度も西野くんを駅で見たことはなかったのに。


自然と隣に並んだ西野くんに、どうして?と目で訴えるとこちらを一瞥して。



「もう11月じゃん」


訳のわからない、答えになっていない返しに、頭の中が混乱する。それでも「うん?」と次の言葉を待つ。



「寒いじゃん」

「……うん」

「自転車だと風冷たいから。だから1週間前くらいから電車にした」

「なるほど……」

「去年は自転車で通ってたけどさすがにねー、もう無理」


ポケットに手を突っ込みながら、去年を思い出しているのか寒そうに肩を竦める。
< 62 / 134 >

この作品をシェア

pagetop