追憶ソルシエール

「でも、今まで会わなかったね」


ふと疑問に思う。この1週間、こうやって西野くんのことを駅で見かけることはなかった。だから、さっき声をかけられたとき、あんなにびっくりしたわけで。




少しの沈黙の後、「あー」と思い出したように隣から発せられる。



「それはちょっと早めに行ってたからじゃない? この時間でも間に合うってことわかって遅くした」

「そういうこと……」

「知ってる? 真冬の自転車めっちゃ寒いんだって。防寒具つけててもほんと凍りそう」

「そんなに?」



高1のときからずっと電車通学で、中学生のときは徒歩通学だったわたしには残念ながら共感することができない。真冬に自転車に乗ったのなんてどのくらい前だろう。もう、記憶にないほど昔な気がする。だけど、冬の痛いほど冷たい風の中、雪が降る中自転車を漕いだらと想像したら、軽く身震いした。





11月に入り、長らくクローゼットに眠っていたブレザーをようやく取り出した。


西野くんは、ブレザーの下にはカーディガンを着ていて、手は未だポケットの中。それでも、身を縮こませて寒そうにしている。まだ冬の入口に入ったばかりなのに、本格的な冬になってしまったら彼は生きていけるのだろうか。クマのように冬眠したりしないだろうか。




「……なに?」

「ううん」


じっと見つめていたことに気付かれて、咄嗟に視線を逸らした。ふるふると首を横に振れば、怪訝そうに眉をひそめられる。
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