毒林檎令嬢と忠実なる従僕〜悪役はお断りなので冷徹な狼従者を甘やかしたら、独占欲強めに執着溺愛されました〜
(……なんだ?)

 こんなにも魔力濃度の高い蝶は〝妃胡蝶〟くらいなものだ。しかし明らかに違う。

 ティアベルの家庭教師になるためだけに数多の分野を勉強し、多岐にわたって資格を取ったアルトバロンの脳内図鑑にも記録されていないそれに、他の者たちも声を上げて反応するかと思われたが、彼らは何も言わないままだ。

(まさか彼らには見えていない? ……上級幻覚魔法の類か。相手は隠蔽工作がよほど上手らしい。見えないフリをした方が賢明かもしれないな。王宮内で無闇に振り払うのも――――は?)

 アクアマリンの蝶が目の前で、パンッと小さな花火のように弾けた。

「ふふっ。驚いたかい?」
「……っ! ユーフェドラ王太子殿下」

 目の前に音もなく現れた金髪を肩丈で切り揃えた碧眼の美青年が、優雅な微笑みを携えながらアルトバロンを覗き込む。
 どうやらあのアクアマリンの蝶は、ユーフェドラのものだったらしい。
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