あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


最近になって、当時の事件を洗い直したら意外なことがわかってきた。
あの贋作事件で有名になった作家の作品が、近頃はかなり高額で取引されているのだ。
今は金融不況もあって、お金の流れが不変の価値を持つ美術品に向かっている。
だから作品の値がつり上がっているのだ。

(やはり、裏があったとしか思えない)

とあるイギリスの資産家が遺産として相続した美術品を、悪徳美術商の手に安く手離す。
美術商は海外に持つペーパーカンパニーを隠れ蓑に買い取る。
資産家は相続税をたいして払わずにすむし、後日お楽しみが待っているのだ。

(贋作騒ぎは、一時的に作家の名を売るための喜劇だったんだ)

そして今になって、悪徳美術商は安く買い取っていた作品を高額で売却していく。
何倍もの値段が付くのだから、もともと作品を持っていた資産家や美術商は莫大な利益を得る。
しかもペーパーカンパニーの持つ海外の銀行口座に入金するわけだから、お金の出所も受取人も隠れたままだ。
日本を拠点としているペーパーカンパニーを調べたら、その会社の役員には弁護士として父の名前もあった。

和花の父を犠牲にして、父はなにを得たのだろう。
人脈か金銭か……。


樹は無駄だと思いながらも、考えてしまう。
どうすれば和花を自分に取り戻せるのか、今日も罪悪感と戦いながら思いを巡らせているのだ。



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