あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


佐絵子は大胆な花柄のワンピースを着て、いくつもの紙袋を抱えている。

「駅前で荷物抱えてたら、樹さんとバッタリ会って送ってもらったんだ」

青い車の運転席には、樹の姿がチラリと見えた。
和花にとって、一番会いたくない人だ。

(車、変えたんだ……)

どうでもいいことが脳裏を過った。
和花が助手席に乗っていた頃は、樹の車は黒いスポーツタイプだった。
彼の車の助手席に座るのは、和花だけのはずだった。 

(仕事帰りなのかな)

また余計なことを考えてしまったと気が付いて、この場から急いで去ろうと決めた。

「暑いからよかったね。じゃあ、私は急ぐからこれで」
「またね~」

無邪気に笑う佐絵子と別れ、和花は駅の方角へ歩き出す。

こんな時、あっさりしている佐絵子の性格がありがたい。
佐絵子は、樹と和花がつき合っていようが別れていようが頓着しないのだ。

この数年は色々なことがあったが、佐絵子は変わらず友だちでいてくれた。
大翔は事件があって樹と別れてからは必要以上に気を遣ってくれたけど、佐絵子がバランスよく三人を繋いでくれるのだ。
兄の恋人だったと意識されたら付き合いづらくなるところだが、いつも佐絵子のマイペースな発言に救われていた。

『過去っていうのは、過ぎ去ったことなのよ。今の私たちとは関係ないでしょ』



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