大切なあなたへ

店の中には溢れんばかりの人が居て、
頭がおかしくなりそうなほどの大音量の音楽。


同じ店とは思えないほどの違い…。


「今日は一也と一緒じゃないんだね。
一也から、志穂ちゃんの話は聞いてたんだ。
だから、一度逢ってみたいと思って、パーティーに誘ったんだ。
来てくれて嬉しかったよ。
志穂ちゃん、ビールでいんだよね」


一馬はこの時、何となく感じていた。


何故、志穂が一人でこの店にやって来たのか。


それは、きっと一馬も同じ想いだったから。


『あっ、はい、ありがとうございます』


“一回来ただけなのに、私の好みが分かってる…”


そんなことを思いながら、ビールを一口呑む。


『今日はお客さん居ないんですね…。
店の中も静かで、従業員も居ないんですね…』


そんな志穂の言葉に、一馬は静かに微笑む。

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