水もしたたる善い神様 ~沈丁花の記憶~
3回めの死は、怖くなかった。
次は左京を見れるかもしれないという期待があったためだ。そして4回目の20歳になる頃。優月の目にはしっかりと左京がいた。あの頃と変わらない彼の顔。肌は白くなっていたし、少し細見になっていたようだが、それでも彼の優しい笑顔は変わらない。優月を見つめる彼は、子どもを見るように穏やかなものだった。
左京様!と、名前を呼んで飛びついて、抱きしめて貰いたかった。
話しをして、「助けてくださり、ありがとうございました」「大好きです」と伝えたかった。けれど、それは出来ない。
蛇神に魂を渡す代わりに、彼の記憶を消して貰っているのだ。自分が話してしまっては全て水の泡になってしまうし、きっと彼は忘れてしまっているのだ。
だから、この時も彼の視線を感じながらもそれに気づかないふりをしつづけて、悲しくなりながらもその生涯を終えた。
そして、最後、5回目の人生がスタートした。
すでに子どもの頃から霊感が強く、霊をはっきりと見えるようになっていた。
自分の中に呪いが強くなっているのでさえ感じられるようになっていたのだ。蛇神が早く魂ごと自分を食べるのを心待ちにしているのだろう。
そして、25歳の誕生日が近づいた頃だった。
「おまえ、あと少しで死ぬんだな?」