水もしたたる善い神様 ~沈丁花の記憶~
「その理由とやらを話せば、おまえに面白い事を教えてやろう」
「面白い事だと?」
「あぁ、そうだ。………それに、先ほどから声だけで悪かったな」
その言葉の後、矢鏡の目の前に突如人間の形をした存在が現れた。
水色の肌に、深海のように深い藍の瞳、そして長髪だと思われるものは、よくみると鱗。真っ白な着物を身に纏った人間に似た化け物の姿があった。いや、化け物だといえば、この存在は怒るだろう。
「おまえのように人間の形にしてみたが、おかしくはないか?」
「まぁ、いろいろ変なところはあるが、どんな形であれ存在していれば話やすい」
「そうか、ならば先程の続きを話せ」
そうその青い足の生えた人魚のような存在は、この龍神神社の龍神なのだ。どうやら、青龍だったようで、鱗や肌なども真っ青なのだ。それが不気味に思えず神秘的にさえ感じられるのだから、やはり神という存在は特別なものなのだろう。
この龍神に紅月の話をするのは嫌だったが、この神が言っていた「面白い事」がどうも気になる。今は藁にも縋る思いなのだ。その話を聞いてみれば、もしかすると何か助ける方法が思いつくかもしれない。
矢鏡は小さく息を吐いた後、階段に腰を下ろした。
短い話ではない。ずっと話し遠しでは疲れてしまうだろう。龍神に遠慮することなく座り込んだが、龍神も気にする素振りを見せずに、その場に佇んで矢鏡をジッと見ていた。早く話せ、という事だろう。
仕方がなく、矢鏡は蛇神の呪いがかかった人間との関係を話す事にした。
矢鏡神社の唯一の参拝客である紅月の呪いを見つけた事。そして、それを祓うために彼女に近づいたこと。そして、昔から惹かれていた紅月と呪いを祓う条件として結婚をした事。その後、体にお経を書き、口からでた蛇の呪いを体の中に取り込んで祓ったが、それでも紅月の体の中にはまだ大きな呪いが残っていた事を話した。
すると、龍神は声を出して笑いながら「無茶をするな、人間の神は」と、涙を浮かべるほど笑っていた。