転生聖女の異世界スローライフ~奇跡の花を育てたら魔法騎士に溺愛されました~

 アルフォークはあの日、足をもつれさせた部下を庇ってサンダードラゴンの雷撃を受けた。通常であれば即死だが、スーリアの花のおかげで一命は取り留めた。ただし、力の弱まったスーリアの花では、完全にサンダードラゴンの攻撃を防ぐことはできなかった。
 右上体部に大やけどを負ったアルフォークは、すぐに部下に助け出され、ちょうど駆け付けたエクリード殿下によってすぐに最上級の治癒魔法の治療を受けた。そのおかげて表面上、怪我は癒えている。だが、右手が動くことはなかった。

 腕が使えなくなったことは、すなわち騎士としての終わりを意味する。

 スーリアの花の力の加護を取り入れる前は、魔法騎士が魔獣の討伐中に身体の一部を失うことはそれほど珍しくも無かった。それらの魔法騎士達の行き先は、金持ちの用心棒や、町のギルドで仕事を得る冒険者だ。剣と魔法が両方使える魔法騎士は、身体の一部を失っても世間一般レベルではそれなりに戦えるからだ。

「──今日は静かだな」

 アルフォークは独り言ちた。いつもなら治癒魔法をさらに試すために魔術師や侍女達の行き交う足音、話し声でさわがしいのに、今日はまるで誰もいないように静かだ。

──考え事をするにはちょうどいいか。
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