青い夏の、わすれもの。
海の香りが漂い、太陽がギラギラと照りつける空の下、17年の人生の中で初めての言葉を受けた私の顔にはどんな表情が浮かんでいるのだろう。

笑うことも泣くことも叫ぶことも何も出来ないけど、たったひとつ確かなことがある。

それは...


嬉しいってこと。


その問いに対する答えは分からなくても、
この胸に宿った想いは確か。

私はただ嬉しかった。

"好き"のたった2文字が嬉しかった。

1度も自分の口からは発することが出来なかった言葉がこんなにも尊いものだとは思わなかった。


「12時30分よりイルカのショーが始まります。ショーをご覧になる方はお連れ様とご一緒に、会場までお越しくださいませ」


水族館の屋外ステージから漏れて聞こえたアナウンスに私はくすっと笑った。

それに釣られて朝吹くんも吹き出す。


「こんなとこまで聞こえてくるんだ」

「ふふっ。まるで私達に来てほしいって言ってるみたい」


私の言葉に朝吹くんは立ち上がった。


「返事はいつでもいいから、今行きたいところに行こう」


私は太陽の光を一心に浴び、汗さえもキラキラと美しい彼を見つめた。

嘘偽りのないその瞳には私だけが映っていた。

私は長時間座って痺れたお尻を気にしながら腰を上げた。


「行こう...一緒に」


その言葉が合図だった。

朝吹くんは私の手を握り、走り出した。

さすがはサッカー部、ひゅんひゅんと加速していく。

でも、この風を切る感じがたまらなく心地よかった。

この風にずっと吹かれていたいと思った。


私の失恋の痛みを和らげてくれたのは、

サイダーのように爽やかで

そよ風のように穏やかで

日だまりのように優しい

朝吹風くんだった。

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