【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない

床にひれ伏したまま今まであった事を思い返す。
一緒に暮らすのはたとえ婚姻関係にある女性であっても、それは契約上でだけの事。
初めは思いやりとか歩み寄りなんて必要ないと思っていた。

でも彼女の素直な想いを聞いたあの夜、思っていた以上に彼女が俺を必要としてくれていると知った。

一緒に食事をするだけで、あんなに嬉しそうな顔をしてくれた事を忘れない。

誰も側に居なくていいと思っていたのに、いざ居なくなるとこんなにダメージを受ける自分がいたなんて。

項垂れる俺を尻目に、碧人はソファーから立ち上がり携帯を取り出す。

「真凛さんから連絡があれば逐一報告する。 今一緒にいるのは大学時代からの友達で女性だから心配するな。
さって、俺は桃菜さんに連絡を取ってみるよ」

思いがけない言葉に顔を上げる。 あれだけ冷たい事を言い放っても、人を放って置けない所が碧人の良い所でもある。

俺は真凛の事しか頭になかった。 それはもう好きだと言っているようなもので

「自棄になって何をしでかすか分かったもんじゃないからな」

「…碧人、お前にばかり苦労をかけるな」

再びため息を吐くと、大きな瞳を揺らして柔らかく微笑む。

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