【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない

キッチンで食器を洗いながらぶつぶつと独り言が漏れる。

「何で何も言ってくれないんだろう…」

小早川さんいわく伊織さんは必要がないと判断すると食事を全くとらなくなるそうだ。 食べる事が大好きな私には信じられない。

栄養はサプリメントで補っていると伊織さんは豪語していたが、絶対に体に悪い…!何でも満腹になると頭が鈍るらしくそれが嫌らしい。

だから私とこうやって一日一回でもまともな食事を取る事になったのが信じられない、と小早川さんは言っていた。


一応形上の夫婦とはいえ、私だって伊織さんのそんな話を聞けば心配になる。

事実彼は痩せすぎだと思う。 178センチも身長があるのに、体重が60キロなんて。お医者さんに言ったら絶対に怒られちゃうよ。

だからこうやって一日一回でもまともな食事を取ってくれることは安心なのだけど……


彼は私が何を作っても、どれだけ一緒に何かを食べようと
一切何も言わなかった。  その事にやきもきしているのである。

’美味しい’の一言くらいあってもいいんじゃないの…?! そう言いたかったけれど、中々自分の気持ちをはっきり口に出せずに嫌になる。

だってそんなの押しつけがましいって分かっているし。

< 70 / 284 >

この作品をシェア

pagetop