優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
第29話 trap&trap【水和子 視点】
壱哉(いちや)の婚約者になってからは毎朝、黒塗りの車が迎えに来る。

「水和子お姉ちゃんが乗ると似合うわね」

緋瞳(ひとみ)に言われ、いつもなら、しょんぼりうつ向くはずの日奈子が今日は平気な顔をしていた。
連休が明けたからと言って、自分の立場がガラリと変わるわけでもないのにそれすら、
わかってないみたいね。
会社に着くと、皆が私に会うたび挨拶をした。
私が壱哉の婚約者だから当然よ。
壱哉が日奈子を好き?
好きだけで結婚できる立場じゃないでしょ。
壱哉がなんて言おうが、私が尾鷹(おだか)の婚約者として、社員にも親戚にも認められている以上、この現状は変えれないわ。
地下から広報部の後輩が出てくるのが見えた。
地下には日奈子が働いている倉庫がある。

「ちょっとあなた。何しているの?」

「主任。おはようございます」

「まさか倉庫にいたの?」

「はい。少しだけですけど、お手伝いできたらって思って。一人であんな大量な商品を管理するのは大変ですから」

なるほどね。
日奈子が仕事を辞めたいと言わないはずだわ。
他の人間が手伝っていたなんて。
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