優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
声の先にはゆるふわウェーブでミルクティーベージュのロングヘア、ピンク系のメイク、ハイブランドのスーツを着たお嬢様が仁王立ちしていた。

「ど、どうして杏美ちゃんが激安スーパーに?」

「外から見えたからよ。相変わらず、頭が鈍いわね」

スーパーの店先に黒塗りの車が横付けされているのが見えた。
しかも、自動ドア前。

「車っ!め、迷惑だからっ」

「そんなわけないでしょ?ねえ?そこの店員さん?」

「もちろんです!尾鷹(おだか)家のお嬢様。いつでもどうぞっ!」

「ほらね」

「そんなドヤ顔して。迷惑だから」

「迷惑じゃないって言ってるでしょっ!」

杏美ちゃんはこの町の名家、尾鷹家の娘だ。
尾鷹家は昔から、ここ一帯を治めていた家柄で今でも町に多額の寄付をしている。
小学校のピアノも町の公民館も町の専用バスも公園やお寺、神社に至るまで尾鷹の寄付で成り立っている。
町では『困った時は尾鷹家へ』と言われるくらいで、尾鷹家はお殿様のような存在だった。
尾鷹の家に逆らったら、この町では暮らしていけない。
それくらいの家柄なのだ。
その尾鷹家の娘である杏美ちゃんとは同じ歳ということもあって、私はよく絡まれていた。

「そんな怒んなくても。わかったから、何の用なの?」

「何の用ですか?でしょ!?ドン子はこれだから。礼儀がなってないわね。そんなので四月から尾鷹の会社でやっていけるの?」
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