優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「壱哉さんじゃなくて、えっと、尾鷹専務。今日からよろしくお願いします」

礼儀正しく深々とお辞儀をした。

「壱哉でいい」

「えっ?じゃ、じゃあ壱哉さん」

うん、と壱哉さんはうなずいた。

「あの、なにをすれば?」

「適当で」

て、適当っ!?

「お茶でも飲む?」

立ち上がろうとした壱哉さんを慌てて止めた。

「わ、わ、私がいれますっ!秘書だからっ!」

壱哉さんにお茶をいれさせるなんてとんでもない。
専務の壱哉さんがいる役員室は会議室が別室に一つとミニキッチンがついた給湯室があり、私の席は少し離れた入口付近にあった。
棚の中にはファイルがぎっしりと詰め込まれていた。

「えっと、カップとポットと」

「ゆっくりでいい」

「はい」

そう言われるとホッとして、気持ちが落ち着いた。
棚からカップやポット、お茶やコーヒーが入ったかごを取り出した。
カップが並んだ場所を見て、思わず笑みがこぼれた。
壱哉さん、優しいなあ。

「ありがとうございます」

壱哉さんは書類から顔を上げた。

「私が今日からくるってわかったから、カップを用意してくれたんですね」

シンプルなカップの隣にクマの絵が描いてあるファンシーなカップがあった。
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