優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「今園も秘書室に戻る。これでいいか?」

「はい!……でも、あと一つだけ」

「なんだ?」

「杏美ちゃんに伝えられたらって思って。安島さんが会社から、いなくなって、壱哉さんが社長になったって聞いたら、帰ってこようって思うかもしれないから」

「どうだろうな」

壱哉さんは苦笑した。

「杏美は二度と尾鷹に戻らないと覚悟を決めて出て行った」

「でも、壱哉さんは杏美ちゃんの居場所を知ってますよね!?」

壱哉さんは驚いて私を見た。

「根拠も理由もなにもなくて、ただ私の勘なんですけど」

じいっと壱哉さんを見ると、困ったように笑った。

「日奈子には敵わないな。確かに杏美の居場所は知っている。だが、杏美の方は俺に居場所を知られているとは思っていない」

「そう……なんですか」

「杏美から、こちらに連絡を取りたいと思うまではそっとしておこうと思っている」

私は黙って首を縦に振った。

「安島が会社の金を不正に使用していたことは報道される。社長の交替も。杏美もそれで知るだろう」

「そうですか」

それなら―――いつか杏美ちゃんから連絡をくれるかもしれない。

「日奈子、他にお願いはある?」
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