優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
番外編【杏美】

お兄様のカレーライス

「ねえ、貴戸(きど)。ガスコンロってどうやって使えばいいのかしら?」

そんな質問から私の結婚生活は始まった。
前途多難?
いうなれば、そうね。
貴戸は怒らずに『そうですね。使う時は自分がいる時にして頂けますか?』と言って、優しく教えてくれた。
私はお嬢様だった。
そう、過去形。
私は『駆け落ち』をした。
結婚式当日に―――

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「結婚したら、貴戸ともお別れね」

貴戸は抑揚のない声で『そうですね』と言った。
私が中学生の頃、貴戸の父親が運転手を引退して、それから跡を継いで私の運転手をしてくれるようになった。
愛想笑いも面白いことも何一つ言わない男だったけど、無駄口を叩かず、いつも静かにそばにいてくれた。
習い事の多い生活を送っていたから、自然と貴戸といる時間も多く、中学からは親友の日奈子とも学校が離れたから、中学の頃は貴戸の方が長く一緒にいたんじゃないかしら?
まあ、日奈子が心配で時々、顔を見に行ってあげたけどね。
親友として。
決まった時間にスーパーのあたりをうろうろしていれば、日奈子は大抵出没するから捕獲するのは簡単なことだった。
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