優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「ねえ、貴戸。私が結婚したら、寂しい?泣いてくれる?」

わずかに貴戸の表情が揺らいだ。
たったそれだけの反応jでも私は満足だった。
どうせまた『そうですね』としか言わないのだから。
いつものようにね。
私が貴戸に好きだと告げた時は『そうですか』だった。
さすがにその時は怒鳴りつけてしまったけど。
やっぱり、今日も同じ。
貴戸からの返事はない。
窓の外を眺め、通り過ぎて行く景色を眺めた。
私と貴戸に許された時間はこの時間だけ―――貴戸に私をさらえと言う方が無茶な話だとわかっている。
しかも、私の事なんてまだ子供だと思っているに違いないのだから。

「そうかもしれません」

その答えは新しい―――ふとバックミラーを見ると貴戸と目が合った。

「本当はあなたをさらってしまいたい」

「貴戸……」

「安島のような男でなければ、結婚するのを黙って見ていたでしょう。自分は杏美さんが幸せであれば、それでよかった。けれど、安島家に嫁ぎ、幸せになるとはどうしても思えない」

貴戸の声が震えていた。
真面目な貴戸は自分のその胸の内を語るのは勇気がいること―――そして、その先のことを考えてくれている。
< 248 / 302 >

この作品をシェア

pagetop