優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
どうして―――?その問いだけがずっと胸に残ってモヤモヤしていた。
壱哉は日奈子が好きなの?という考えにはどうしてもなれなかった。
並んでも釣り合わないし、能力的にも壱哉の足をひっぱるだけ。
その日奈子が秘書なんてどういうことなのか、答えが欲しくて秘書室の室長を呼び止めた。

今園(いまぞの)室長!」

年齢不詳の冷たい印象のあるベテラン女性秘書の今園秘書室室長が振り返った。

「なにか?」

淡々とした口調に怯みながらも、なんとか聞いた。

「私の妹の呑海日奈子ですけど、秘書室に入ったのは何故ですか?それに秘書室の新人教育を受けずに専務付きなんて……。私の妹には無理ではないでしょうか」

「私に人事権はございません」

「それじゃ、いったい誰が?」

「秘書室は守秘義務があります。人事については特に。申し上げることは一切できません」

当然のことだった。
そんなことさえ、私は判断ができないくらい動揺していた。

「新人の皆さんも心得ておきなさい。秘書室に入ったからには外からのお客様や役員のプライベートを知っても外に他言することは厳禁です」
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