優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
今日やったことといえば、秘書のマニュアルを一通り読んで、お茶をいれて壱哉さんから好きなおやつを食べていいって言われたから、冷蔵庫や棚の中に入ってるお菓子を出し、一緒に午後のお茶をした。
もしかして、私……し、仕事してない?
や、役立たず?
ううん!
秘書の仕事が本格的に始まるのはこれからだからっ。
まだ初日だったせいで、気を遣ってくれたんだと思う。きっと!
拳を握りしめた瞬間、インターホンが鳴り、慌てて夕飯の肉じゃがの火を止めた。

「はーい。あ、渚生(しょう)君!」

インターホンのモニター越しに渚生君が手を振っていた。
ドアを開けると、手に回覧板を持っていた。

「お隣に持って行けって言われてさ。日奈子ちゃん、今日の仕事どうだった?」

「えっと、まだ何もわからないんですけど、丁寧に教えてもらえたので、大きな失敗はせずにすみました」

「それはよかった」

もしかして心配してくれたのかな。

「これ、うちの母親から、おすそ分け」

「わぁー!イチゴだー!」

キラキラとした赤い粒が並んでいた。

「日奈子ちゃん、イチゴ好きだからね」

「ありがとうございます」
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