優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「なぜって、役に立っているとは思えませんし、妹が迷惑をかけて尾鷹(おだか)専務の仕事の邪魔になっているからです」

「専務に秘書を付けてから、雑務が減り、以前よりも早く帰宅されています。お食事を摂らないことも多かったですが、今はきちんと召し上がられています。呑海さんは真面目に働いていて、あなたが心配されるようなことは何もありません」

抑揚のない冷たい声が響いた。
まるで私の心の奥深くまで見透かされたようで恥ずかしかった。
だから、今園室長は苦手なのだ。

「そうですか。妹がきちんと働いているみたいで安心しました。失礼します」

その場を取り繕うような作り笑いを浮かべ、早足でその場を立ち去った。
長く居たくはなかった。
役員フロアの廊下を歩いていると、コピーした書類を持った壱哉と日奈子が歩いてくるのが見えた。
遠目からでも恋人同士には見えず、兄妹みたいでなぜか、ホッとした。

「壱哉」

「呑海?どうしてここに?」

「ちょっと用事があったの。もう済んだわ」

「そうか」

隣の日奈子はおどおどした顔で私を見ていた。
壱哉にこんなコピーした書類を持たせて信じられない。

「ごめんなさいね。コピーも一人で出来ないなんて申し訳ないわ」

「いや、コピーが終わった頃に迎えに行っただけだ」

「量が多くて、それでっ」

「一人で運べないなら、往復すればいいでしょう?」

「う、うん。次はそうする」

日奈子はうなずくと、うつむいた。

「壱哉。フェアが成功したんだから、私と飲みに付き合ってよ?」

日奈子はハッとして顔を上げると、私と壱哉を交互に見た。

「私っ、先に戻りますね。こ、これ、もらいますっ」

日奈子はコピーした書類の山を壱哉の手から奪い取ると、ふらふらしながら抱えて役員室に入って行った。
それを壱哉が心配そうに眺めていたけど、私は構わずに言った。

「壱哉。仕事の成功をお祝いしてくれないの?」

「わかった。渚生(しょう)の予定を聞いてからまた後で連絡する」

いつも必ず、壱哉は渚生を呼ぶ。
私とは友人であるという自分のスタンスを崩さないように。

「二人で飲みたいの。だめ?」

「誤解されたくない」

「そう。私達、二人でいると噂になってしまうくらいお似合いだものね。昔から」

壱哉の顔を見たけれど、無表情で何を考えているか、その表情からはまったく読めなかった。
< 49 / 302 >

この作品をシェア

pagetop