優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
その態度に正直、イラついた。
腕時計を見るとちょうど終業時間だった。
ちょっとした仕返しのつもりだった。
秘書室のドアが開けられるのが見えた。

「じゃあ、壱哉。後から連絡ちょうだい」

そう言って立ち去ろうと見せかけて、わざとつまずいた。
壱哉に倒れかかると抱き止めてくれた。

「せ、専務っ!?」

「呑海主任!」

秘書室の女子社員が私と壱哉が抱き合うのを見て、驚きの声をあげた。

「ごめんなさい。つまずいてしまって」

壱哉は眉をひそめたけれど、もう遅い。
秘書室がいくら口が固いなんて言ってもそれは建前よ。
明日になれば、私と壱哉が抱き合っていたと社内に広まるのは目に見えていた。
苦々しい顔をした壱哉を見て、私はそろそろ自分の想いを伝えるべきなのかもしれないと思った。
このままだと、私はずっと一緒にいた壱哉を失ってしまいそうな、そんな予感がした―――
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