優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
隣の壱哉さんは無表情だったけれど、あまり好きではないことは微妙な空気で伝わってきた。

安島(あじま)常務」

「おいおい、堅苦しいなぁ。親戚だろ?」

「遠い親戚ですが」

「厳しいな」

この人が常務。
常務付きの秘書になった杏美ちゃんが隣にいて、常務を見上げて嫌そうな顔をしていた。

「壱哉が社内で抱き合ってたって聞いたぞー!女に興味ないのかと思っていたら、意外とやるなと感心していた―――っと」

壱哉さんの怖い顔に安島常務が黙った。
抱き合っていた?壱哉さんが?
驚き、壱哉さんを仰ぎ見ると目が合った。
私にやましいことなんかないのに気まずくて、思わず目を逸らして下を向いた。

「安島常務。転びかけた人間を支えただけです」

「そんな怖い顔するなよ。社内で噂になっているのをただ俺は言っただけだろ?」

「ただの噂ですが。それを会社の上層部がいちいち気にすることではないかと」

「気にするに決まってる。将来は尾鷹商事の社長になるお前の相手なんだからな。まあ、相手の名前を聞いて俺も安心したけどな。尾鷹家でうまくやっていけそうなタイプじゃないか」
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