悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで

真情

 今更ながらに、気づいたことがある。
 お手付きになり、解雇された――噂は原因と結果だけだが、そもそも合意だったかどうかという話は聞こえてこなかったことだ。

(もしも、強要された関係だとすると……妻を亡くしたお父様からの話では、またかと疑われてしまったかも)

 考えが足りなかった。知識があっても、全く活かし切れていないと反省する。
 とは言え、七歳では直接、ミレーヌに依頼は出来ないし、これからも何かと父親経由の行動になる。逆に今、気づいて良かったと前向きに考えよう。
 そう思って、アデライトは口を開いた。

「ミレーヌ様、初めまして……アデライト・ベレスと申します。お父様には、私がお願いしたのです」
「……あなたが?」
「はい」

 そこで下げた頭を上げて、アデライトは真っ直にミレーヌを見て話の先を続けた。

「私はこれから、お父様と過ごす為に領地へと戻ります。我が領地で、ミレーヌ様やミレーヌ様のお母様に、のんびり過ごしてほしいと言うのもありますが……母を亡くしたことで悪く言われないよう、ミレーヌ様に学んで立派な淑女になりたいのです」

 巻き戻り、やり直す時に決めたことがある。
 それは、隠し事はしても嘘はつかないということだ。冤罪で死に、復讐すると決めた時――絶対に、嘘をついたリガルト達と同類にはならないと決めたのである。
 あと、傷ついた相手には可能な限り誠実に応えるべきだと思う。それ故、父には伝えていなかったもう一つの理由を伝えると、ウィリアムが驚いて尋ねてきた。
 
「そうだったのか?」
「ええ……隠していてごめんなさい。お父様……」

 父に言えなかったのは、亡き母を引き合いに出すことで気を病むと思ったからだ。しかし、一回目で王宮で暮らし礼儀作法を学んだ時、事あるごとに教師や侍女に「これだから、母親のいない娘は」と言われたのでここは譲れない。
 今振り返ると年相応には出来ていたので、単にリカルドに嫌われていたアデライトが侮られていたからだと思うが――巻き戻った今、自分もだが二度と亡き母を馬鹿にさせるつもりはない。
 改めて決意をし、ミレーヌを見上げる。
 そうすると、ミレーヌもまた真っ直にアデライトを見返してきた。

「……母も、本当に一緒でよろしいのですか? 母は、体が弱いのです。ご迷惑を、おかけするかもしれません」
「お父様……」
「ああ。こちらは、是非にとお願いする身だ。領地に旅立つ前に、我が家の主治医であるパウルに診察して貰おう」
「ありがとう、ございます……精一杯、勤めさせて頂きます。どうか、よろしくお願い致します」
「こちらこそ……ありがとうございます、ミレーヌ様……いえ、ミレーヌ先生!」

 最後の憂いも無くなり、再び優美な仕草で一礼したミレーヌに、アデライトは笑ってお礼を言った。
 ……そんな彼女達を、ノヴァーリスが微笑みながら浮かんで見ていたことを、アデライトだけが知っていた。
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