The previous night of the world revolution~T.D.~
「…どういう意味ですか?」

僕がそう尋ねると。

同志は、そんなことも分からないのか、みたいな。

嘆かわしそうな顔をした。

そんなことも分からなくて、悪かったですね。

「我が国には、最早一刻の猶予もないのです」

「…」

「私達がこうしている今も、飢えに苦しみ、明日食べるものどころか、今日食べるもののことを考えている人がいます。今このときに、既に苦しんでいる人がいるのに…」

「今すぐにでも、ルティス帝国は変わらなければならないのです。同志がそのような、悠長なことを言っている間に、一人また一人と、無辜なる民が死んでいくのです。そのようなことを考えたことはありませんか」

「…これは、失礼しました」

如何せん僕は、無辜なる民が飢えに苦しんでいる間。

王族としての嗜みと言われて、バイオリン弾いていたもので。

「確かに、僕が浅はかでした。申し訳ありません」

「…」

サナミア党首含む、全ての同志達が、僕を懐疑的に見つめる。

…うーん、嫌な空気だ。

「誤解しないで頂きたい。僕は、この論文そのものに反対している訳ではありません。ルティス帝国の目指すべき未来は、この論文の中にあるものだと思っています」

ここはせめて、言い訳をしておかないと。

政治家とかがよく使う術、その3。

必死の言い訳。

「出来るだけ早く、改革を推し進めなければならないことも分かっています…。しかし、真に国民のことを考えるならば、急速な政府体制の変革に伴う弊害についても、考えなくてはならないでしょう」

「弊害ですか?政治改革をして弊害を受けるのは精々、現在貴族特権で優雅に暮らしている一部の特権階級だけでしょう」

サナミア党首は、せせら笑うかのようにそう言い。

他の同志達も、その通りだとばかりに頷いた。

酷い話ですよ。

弊害を受けるのは、貴族達だけではない。

自分達もまた、自らの身を痛めつけることになると、彼らは気づいていないのだから。

「…どうやらルクシア同志には、独自の思想、信条があるようですね」

…何?

つまり、「お前は私達とは違う考えの持ち主のようだな」ってことか。

スパイとしては、大変不味い認識だ。

「…理解して頂けないのが、とても残念です」

僕は、大袈裟なくらい悲痛な顔をしてみせた。

すると。

「理解していないとは言っていません。あなたは、『赤き星』の同志。あなたの考えを、私達に理解させてもらいたいと思っています」

「…それで僕は、どうすれば理解してもらえるのでしょう?」

「そうですね…。…論文から始まった議論です。あなたの思想、信条を、紙に書いて持ってきてはもらえませんか」

何?

また論文提出しろって言うんですか。

このサークルは、どれだけ僕に論文を書かせたいんだ。

美術学部での、抽象画課題の提出期限が来週までだから、そちらも描かないといけないのだが?

それに加えて、また面倒そうな課題を…。

…しかし。

「分かりました。光栄です」

僕は、自分の考えを知ってもらえる良い機会を得たとばかりに、嬉しそうに頷いてみせた。

スパイとしては、そうするのが正解。

おのれ。面倒なことになってしまった。

…しかし、抽象画の方、どうしよう?
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