秘密の秘密は秘密じゃないのかもしれない

プロローグ

プルルルル…プルルルル…

『お電話ありがとうございます。三峯商事営業部でございます。』

『浅川製菓の間宮です。田中課長、お願いします。』

『はい。少々お待ちくださいませ。』

「課長、浅川製菓の間宮さんお電話です。」

「分かった。」


私、杉原真帆はこの三峯商事で営業補佐として働き早7年。私の先輩はみんな辞め、さらには後輩も寿退社が続き、今ではベテラン補佐になってしまった。今は3年目の真砂美花ちゃんと今年入った竹下春子ちゃんの3人で補佐している。
私は今のところ結婚する予定もなく、さらに言うと結婚願望もそんなには熱くない。
今の仕事にも満足しているし、やりたいこともあり彼氏がいなくても充実している。

「杉原さん、間宮さんが先日の書類褒めてたよ。別件で、昨年ヒットした商品の再販をかけたいらしくて取引したいみたいなんだ。明日の15時に話してくるんだが、悪いが昨年の契約内容や商品の動向を見たいから資料出しておいてほしい。」

「わかりました。」

私は営業から言われた資料の作成やコピーを始め電話番や雑務などを請け負う。
そんな影のサポートが好きだ。
前に出たいタイプではなく、今の仕事が性に合ってると思う。

私は先程課長に言われたことを付箋にメモしパソコンに貼った。
その前に部長に頼まれていた資料に取り掛かる。こちらは後少しで完成するので仕上げにかかる。
美花ちゃんは佐藤くんに頼まれ資料室へ向かっており、春子ちゃんは午後の会議室準備。
補佐3人と割といるように思うが営業が15人もいる大所帯のため補佐3人は少ないと思う。
現に私の頼まれている部長の資料はパソコンが苦手だから、と代わりにやっているものだ。普通の営業ならやるようなことも部長は出来ず仕事を振られてしまう。
ただ、部長が打つとたった1枚の契約書でも3時間はかかってしまうため効率が悪い。
そのためつい私がやりますと引き受けてしまい、部長の資料は基本私が請け負っている。

ただ、部長はあぐらをかいているわけでもなくいつも、
「杉原さん悪いね。前よりはスピードが上がったけど枚数が多いとちょっと…というかかなり時間がかかって。それに自分で言うのも何だけど誤字が多くて。手書きならいくらでも書くんだけど。でもパソコン教室に通って頑張ってるから…。」
という。
私はちょっと頼りなさげな部長が好きだ。
恋愛的にではもちろんなく、人間的に好き。
きちんと部下にも謝ることや感謝を伝えることができるって素晴らしいと思う。
前にいた部長は横柄でうまく行かないことがあると資料を投げつけたりして当たってきていた。彼が異動になった時は部のみんなで喜んだ。
その後に来てくれた今の部長は穏やかで周りをよく見てくれる。アドバイスも的確だし、人当たりが良い。パソコンが多少得意じゃないくらいかわいいものだと思ってしまう。

さ、部長の仕上げをして、課長の資料に取り掛かろう。

< 1 / 182 >

この作品をシェア

pagetop