キミを描きたくて



「いらっしゃい、依茉ちゃん。悪いけど、今日隼人は休みだよ」


困ったように笑う店長さん
はい鍵、とアトリエの鍵を渡してくる。

そっか、隼人くん今日居ないのか…

おかげで素直になれそう、なんて伝えようと思ったのに。


「嬢ちゃん、珍しいね。こんな時間に」

「え?ああ…」

「それに、あの坊主以外の男なんてねえ。おいそこの、お前さんはなんか絵か何かやってるのかい」

「僕ですか?何も」


いつも見る常連さんがそう話しかけてくる。
私が連れてくるのは大体絵の関連だと、何となく思ってるんだろう。


「ふうん、そうかい。そういえば嬢ちゃん、"生きてるうちに"あの坊主の絵、描いたんだってな」

「なんでその話知ってるんですか?」

「そりゃあ嬉しそうだったからさ。ほら、嬢ちゃんずっと絵に悩んでいたろ。やっと描いて貰えたって嬉しそうだったぞ」

「…はあ、そうですか」

「それに今回は抽象画じゃないって言うじゃないか。珍しいもんを描いたね」


今度1度見てみたいよ、邪魔してごめん、そう言って常連さんはまたコーヒーを飲み出す。

…そういえば、あの人絵かいてるのみたことないな。

私みたいに、専用のアトリエがあるのかな…


「どこ?依茉のアトリエ」

「ああ、すみません…こっちです」


カフェの通路。
"関係者以外立ち入り禁止"と書かれた扉の先の、1番奥の部屋。
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