キミを描きたくて
「それじゃあまたね、依茉ちゃん」


散々泣いて話した次の日、隼人くんは家まで送り届けてくれた。

…紫月くんからの連絡は全て無視して、最終的には電源まで切ってしまった。

隼人くんは一晩中、私が泣き疲れて眠るまで話を聞いてくれて、何度も何度も涙を拭ってくれた。

兄の話も、紫月くんの話も、彼は嫌な顔ひとつせず、むしろ話したことが嬉しそうに聞いてくれる。

昔から、私の話を嫌な顔をして聞いたことは無かった。


「…鍵、空いてる」


部屋の前についてドアの取っ手を引くと、直ぐに気づいた。
閉め忘れたのか。まあ、頭が兄のことでゴチャゴチャとしていたし。

そう思いながら玄関に入ると、今ではもう見なれてしまった靴が二足並んでいた。

…ああ、話さなきゃいけないんだ。
その事に何となく嫌気がさして、このまま家の外に出ようかと考えた時、リビングの戸が開いた。


「随分遅い帰りだね、依茉」

「…来てたんだ」

「鍵も開けっ放し、連絡も返さない、電源は切りっぱなし…言い訳があるなら今のうちに聞くよ」


随分と怒った顔のした紫月くん。
でも、怒っていいのは私だ。

なんで逃げるなと言ったやつが他の女といたのか、なんで勝手に来てるのか。

なんでそっちは勝手な行動が許されるのに、私だけは制限されなきゃいけないのか。
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