【完】真夏の校舎で出会ったのは幽霊でした。
力なく吐かれたその言葉が悲しみと不安で溢れていた。どうしたらその不安をなくして先生は笑ってくれるだろうか、そう考えたら無意識に身体が動いてしまったのだ。
それに私自身の“空っぽ”になった気持ちも埋めたかった。ふわっと絵の具の匂いが鼻腔を擽って、それが変に心を安心させる。
「校庭の向日葵、今年も綺麗に咲きましたね」
花壇に今年も綺麗に咲いている。先生が宏海さんと一緒に眺めていた向日葵が。その絵に描かれてあるように彼女はきっとこれからもどこかで笑っているのだろう。
だから藤村先生にも笑って欲しいのだ。そう私が願うように、宏海さんも願っている。
「僕は教師だから本当はこんなこと言っちゃいけないけど・・・もう少しだけこのままいてくれてもいい?」
「じゃあその代わりに後で一緒に向日葵を描きに行きませんか?先生の初恋話聞きたいです」
私だって宏海さんのことを忘れたくない。例えほんの短い間の出会い方だったとしても。何年後も、何十年後も、宏海さんのことを覚えている一人でありたい。
だから先生も、たくさん教えてくださいね。そう言うと、すぐ耳元で先生はクスリと笑いを溢す。
「君が絵のモデルになってくれるなら、教えてあげないこともないよ」
きっとこれから先ずっと向日葵を見る度に彼女のことを思い出すに違いない。
夏は暑くて苦手だなんて豪語していたけれど、この暑さでさえも彼女の温もりのある笑顔を彷彿とさせて愛しさを覚えてしまうのだろう。
「私のモデル料は高くつきますよ」
「あはは、それ宏海も言ってたよ」
高校生最後の夏、私は一生忘れることのない、大切な想い出ができた。
【完】


