【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 わたしは思わずクスッと笑ってしまった。

「口づけは前にもしたわ。狼の時にもよく舐められてた」
「あれは別だろ」

 ヴォルフはちょっとすねたように言った 。
 けれど、すぐに真剣な表情になって、大きな手のひらでわたしの頬をつつんだ。その手は耳を撫で襟足をくすぐってから、わたしの後頭部を支える。
 もう一方の手は、わたしの腰に回った。ほんの少し力を入れられただけで、動けなくなる。
 もう、逃げられない。わたしはついに、ヴォルフに捕まってしまった。

「では、こんな口づけは?」

 怖いくらい熱い視線だった。獲物を前にした野生の獣のような鋭い目。
 でも、どこか拒絶されるのを恐れているようにも思えた。

「マリアーナ……」

 わたしはその吐息と、激しい口づけを受け入れた。

 ――いいえ、わたしは捕まったのではないわ。
 わたしは自ら喜んで、聖なる獣の牙の下に飛びこんだのだ。



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