【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
「もう大丈夫だ。水晶は塵になった」
「……えっ?」

 聖なる水晶が、塵に……ええっ!?

「マリアーナの願いを女神が聞き入れた」
「わたしの、願いを?」
「女神の水晶がなければ、聖女を探し出すことなど、人間にはできないだろう。聖女はもう人の世に現れない」

 そうか、女神様が……。やはり愛を司る女神様にとっては、聖女の独り身の献身は不本意だったのかしら……。

 ふいに、世界がぐらりと揺れた。
 ヴォルフの力強い腕がわたしの腰をつかむ。

 あれ?
 もしかしたら揺れているのは、建物ではなくてわたし自身……?

「ヴォルフ……わたし……」

 うずくような熱が、急によみがえってきた。
 体が熱い。息があがる。

「あ……」

 緊迫した事態に覚醒していた意識が、また曖昧になってくる。
 さっき飲まされた王家の秘薬の効果が戻ってきているのかもしれない……。

 めまいがして膝からくずおれそうになったわたしをヴォルフが抱きあげてくれた。

「……ヴォルフ……」

 ヴォルフの広い胸に顔を預ける。
 少し甘くて爽やかなヴォルフの匂いに、体の芯がとけてしまいそう……。
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