【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 わたしを抱いたまま、ヴォルフは陛下に視線を合わせた。
 陛下も近衛騎士達もあ然とした表情のまま、ヴォルフを見つめ固まっていた。
 ヴォルフの厳然とした声が双月の間に響く。

「……女神の加護は人知の及ばぬ神の領域のもの。己の欲望を満たすために利用することはまかりならぬ」

 誰もが気圧されて何も言えずにいる中、かろうじて陛下が口を開いた。

「お、恐れながら……加護を受け、国を治めることが……」
「この期に及んで、民の幸福のためなどという浅薄な言い訳をするなよ」
「…………」
「女神に己の怠慢を転嫁するな。王も貴族も平民も、女神の前では変わらぬ。泡沫の命に過ぎぬと知れ」

 声もなく、国王陛下がひれ伏した。
 騎士達も次々と膝を折った。

 ヴォルフはわたしを彼らから隠すように胸に抱きこむと、割れた窓から宙空へと飛び出した。





 夜の冷えた空気が空に浮かぶわたし達をつつむ。

 天空には冴え冴えと輝く月。
 遥か下には、初夜の儀のための豪華な館。
 そして、王宮の尖塔、大神殿の白い屋根、王都を彩る宝石のような篝火の列。

 街が遠くなり、見上げた月が瞬いた途端、わたし達の存在はその場からパッと消滅したのだった。



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