【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 そして、その直後、まぶたの裏がすうっと暗くなった。

 ……何が起きたの?

 怖々と目を開けると、張り出したテラスには、ぼんやりと銀色の光をまとう狼がいた。

 ええ!?

 しなやかな巨体。
 光り輝く白銀の毛並み。
 こちらをじっと見つめる金の瞳。

「……ヴォルフ!?」

 こんなところに、なぜ?
 どこから来たの?

 そうだ、ここは王家の離宮。
 突然、大きな獣が現れたら、騎士達に剣を向けられるかもしれない。

「危ないわ! 隠れて!」

 けれど、テラスの欄干越しに周りを見回しても、護衛騎士達は狼に気づいていないようだ。

 ……気づいていないどころか、動きが止まっている?

 違和感があった。
 騎士達だけでなく、林に潜む虫や獣の気配も消え、風がやみ、篝火の揺らめきも、月の光すらも凍りついたように止まって見える。

 しんと静まり返った夜の空気に、狼の低い鳴き声だけが響いた。

「クゥーン」

 大きな体躯に似合わない、甘えているみたいな声。
 ふっと緊張していた体から力が抜けて、わたしは狼に向き直った。

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