【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 今は市場の果物売りの屋台で、旬の果物を吟味していたところだ。けれど、お肉が大好きなヴォルフには、果物屋さんは退屈だったみたい。

「なにを見ているの? 似顔絵?」

 かがんだヴォルフのうしろから、わたしもカンバスをのぞき込む。
 敷物の上で売られているのは、風景や街の名所の絵が多かったけれど、ヴォルフが見ているのは人物画だ。ほかの絵よりも大きくて、力作であることがわかる。

「貴婦人の肖像画かしら。……あっ!」

 そのカンバスには、長い黒髪に青い瞳、白い衣装を着た女性の姿が描かれていた。

「もしかして、聖女の姿絵?」

 そう、それは『聖女』の肖像だった。
 大神殿で女神に祈りを捧げるその姿は、わたし自身とは似ても似つかないほど高貴で神秘的だ。
 天からは、大きな白銀の狼が舞い降りてきている。女神レクトマリアの眷属神、狼の姿をしたヴォルフだった。

「すごく綺麗……」

 王宮にいたころ、歴代の国王陛下や王族の肖像画を見たことがあるけれど、重々しく威厳のあるそれらの絵よりも目を惹きつけられる。神々しさと同時に慈しみやあたたかさも感じられて、思わず感動してしまった。
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