【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 神殿の森はそう深くはないし、女神の加護があるため、危険な魔獣は近寄らないと言われている。モーリーンも一人で平気そうだ。
 わたしはため息を吐いて、木々の間に光る青空を見上げた。

「とにかくもう一度様子を……ひゃっ」

 白狼のいた茂みを改めてのぞきこむと、金色の瞳が真っ直ぐこちらを見つめていた。
 体が凍りつく。目を逸らすことができない。
 その瞳は静かで落ち着いており、襲ってきそうな気配はない。
 むしろ聖なるものを前にしたような威圧感があって、足がすくんだ。

「……あら?」

 その時、ふと狼の耳が赤くにじんでいることに気が付いた。

「あなた、その耳、怪我をしているの……?」
「…………」

 狼はまるでわたしの言葉を理解しているかのように耳をぴくぴくと動かし、首を傾げた。
 動いたことで傷口が開いたのか、赤い血が小さな玉になってこぼれる。

「あ、動かないで! 今、手当てを……」

 斜めがけにした鞄の中に、近所のやんちゃ坊主達に使った傷薬が入っていたはずだ。

「あった!」

 幸いなことに、傷薬はまだ十分残っていた。わたしは畏れも忘れて、白狼に近づいた。

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