「槙野だったら、何味にする?」
僕は…。

「僕は、ヤヨちゃんが好きだよ。」

かき氷の味、と思っていたのに、思いがけない言葉が僕の口から飛び出して、毎日繰り返し思っていた想いを言葉にしてしまうと、同時に現実が僕を襲った。

ヤヨちゃんに伝えた時とも、涼太に伝えた時とも違う。夢みたいなふわふわした感覚じゃなくて、はっきりと強く、現実を叩きつけられた気がした。

その現実を消し去る様に、みぞれの雪を手のひらでグシャッと潰した。
水分をどんどん含んでいく手袋は少し重たかった。

ずぶ濡れの手袋をはめたまま、僕はジャージのズボンをギュッと握りしめた。
スカートの下に履いた、ジャージ。先生に注意されたって、僕はこれを押し通した。こんなの格好悪いって、僕はとっくに気づいている。
カッコ悪くったって、周りが認めなくったって、変な目で見られたって、僕は、僕だった。

スカートなんて堪えられなくて、少し高めの声も大嫌いで、ヤヨちゃんが大好きで、雫って呼ぶ涼太に八つ当たりして距離を置く、そんな僕だ。

僕がスカートを履かなければいけないから、僕がこんな声で喋りかけるから、僕の名前がこんなんだから、僕の体がヤヨちゃんと同じだから、僕の戸籍が女だから、僕 はヤヨちゃんに好きだって言えなかった。
ヤヨちゃんの前でも、本当は大好きな涼太の前でも、僕は偽物で在り続けた。

惨めで惨めで仕方が無かった。
僕は僕なのに、僕の「本当」と周りの「本当」が違うと分かった時、それでもヤヨちゃんが好きだと叫んだ自分の感情に、僕は本当は絶望したんだ。

「僕は…。
何を選べば正解だったんだろう…。」
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