「槙野だったら、何味にする?」
二人の会話を聞きながら空気になることに徹していた。ヤヨちゃんはお喋りに夢中で、焼きそばパンはあんまり食べていない。
涼太はとっくに食べ終わっている。僕は黙々と食べていたからもちろん食べ終わっていて、ヤヨちゃんは焼きそばパンすら全然食べていないから、じゃがちゃんなんて食べないだろうなぁなんて、もうどうでもいいことを考えていた。

ヤヨちゃんの話に相槌を打っていた涼太が背伸びをしてそのまま寝転んだ。湿った風が涼太の髪の毛を揺らした。保健室の冷房の風の時みたいに。
こんなに不快指数の高い天気の中で、なんでこんな顔ができるんだろうってくらい気持ちよさそうに目をつむっている。

「りょうちゃん、制服汚れちゃうよ。」

「平気。ヤヨも寝転べば。」

「いやいや…出来ないよ、そんなこと。私は制服汚れるの嫌だし。」

ヤヨちゃんは涼太の前だから恥ずかしいのか、焼きそばパンを持ったまま困っている。
その隣で僕も、涼太と同じように仰向けで寝転んだ。パンを食べ終わってる僕は手持ち無沙汰で、こうやって寝転んでしまえば涼太のことでコロコロ表情の変わるヤヨちゃんを見ないで済むとも思った。

「もー、槙野まで。みんな見てるよ。」

「誰も見てないよ。」

目を閉じて、小さな声で言った。深く呼吸を繰り返す。こうやってみると、不思議と空気もさっきよりはマシに思えてくる。涼太が正しいのかもしれない。
体育をサボることがそろそろキツくなってきていることも、涼太が僕を認めないことも、ヤヨちゃんが無理してオレンジジュースを飲むことも、半分こできなかったじゃがちゃんのことも。
全部がどうでもよく思えてくる。お昼休憩が終わる予鈴が鳴って、目を開けなきゃいけなくなる瞬間までは。予鈴がなったらヤヨちゃんは僕と涼太、どっちの名前を先に呼ぶのかな。
そんなことも、今はどうでもいい。誰も見てなんかいない。誰も居ない世界に簡単に行ける。

予鈴が鳴る。

「槙野、寝てんの?」

涼太が僕を揺らす。ヤヨちゃんが保健室でしてくれた時みたいに。

ヤヨちゃんは立ち上がって僕達を見ている。どっちの名前も呼ばなかった。
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