「槙野だったら、何味にする?」
「馬鹿だって思ってる?僕のこと。」

運動場を見続けながら、僕は涼太に訊いた。涼太も僕を見ないまま、言った。

「恋とか友情とか、俺にはよく分かんないんだ。」

「うん?」

「そういうのって、出会ってからの時間は比例しないだろ。槙野がヤヨを好きなことも、ヤヨが…違う人を好きなことも。」

「違う人」、と涼太は言った。自分のことを好きなことを自覚しながら。涼太のこういう気の遣い方、僕は嫌いだ。ますます惨めになる。

「もし、もしも、だけど、俺が本当に守りたいのがヤヨじゃない誰かだとしたら、それもヤヨの気持ちとは比例していない。誰も幸せじゃないんだよな。」

「他の誰かって?」

初めて聞く涼太の恋みたいな話に驚いて、僕はようやく涼太を見た。涼太もフェンスから背中を浮かして僕を見た。

「もしもって言ったろ。」

「ふーん。」

「だから、もしさ、槙野かヤヨか俺の恋が現実になれば、それってもう友情は終わりってことなのか?」

何かに懇願する様な目だった。こんな顔の涼太を僕は初めて見た。涼太は僕にどんな答えを期待しているのだろう。

「槙野、俺は誰の幸せを一番に願えばいい。」

「そんなの…」

そんなの分かんないよ。僕はヤヨちゃんが好きで、ヤヨちゃんは涼太が好き。涼太はもしかしたら全然違う誰かを好きなのかもしれなかった。どうして誰も自分の幸せを一番に願っちゃいけないんだろう。どうして自分が幸せになれば、誰かが泣いてしまうんだろう。

涼太の顔から目が離せなくて、何か言おうとしたけれど、口を開けたまま、言葉は出てこなかった。喉がカラカラに渇いていた。

やがて涼太の表情がフッと緩んで、いつものちょっと諦めたような、何でもないよっていうような顔になって言った。

「遠いな。お前の席。」

「え?」

「あの席からじゃ雪が降っても気づきにくそうだな。俺の席からはバッチリ見えるよ。」

「何それ。何の自慢だよ。」

涼太は僕をしっかり見て、笑いながら言った。
穏やかな顔だった。

「とにかくさ、ヤヨに伸ばしかけてた手、届かなくて良かったな。届いてたらお前はまた…泣くんだろ。」
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