「槙野だったら、何味にする?」
涼太が居なくなった屋上で、僕の制服の裾が風に揺れている。予鈴がなった。もうすぐ一時間目が始まる。
今日の一時間目は美術。移動教室。美術室は第二校舎にある。ダッシュすれば間に合うと思うけれど、そんな気分にはなれなかった。

「また減点。」

僕は一人で呟いた。夏休みも減点。冬休み前も減点。恋愛も減点。僕の人生は減点ばっかりだ。

涼太の言葉を反芻する。涼太の守りたい人。それは、ヤヨちゃんじゃないのかもしれない。滅多にしなかった恋の話に、涼太が「もしも」なんて曖昧な例え話をするだろうか。
もし、それが本当ならヤヨちゃんは幸せになれなくて、じゃあヤヨちゃんの恋が叶わなければ僕は幸せになれるんだろうか。

ヤヨちゃんの笑顔が好きだ。堪らなく好きだ。
でも、涼太の言う通り、僕とヤヨちゃんの幸せは比例していない。僕が望む形では、ヤヨちゃんは幸せにはなれないんだ。
< 65 / 139 >

この作品をシェア

pagetop