Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「わかってるって」
慌てて弁解する様子がおかしくて、わたしはふふっと吹き出した。
今度は、紛れもない心からの笑顔。
「大丈夫だよ、有沙。わたしも同じように思ってるもん。見えるところに跡が残ったりしなくて、よかったなって」
「……そっか」
二度目の安堵した表情を見せられて、わたしは心の中で苦笑した。
……随分、気を遣わせちゃってるな。
もう少し、へっちゃらだって態度に出せるように、頑張らなきゃ。
すぐに顔に出てしまう自分を反省していると、
「——あ。そうそう」
有沙が空気を変えるように、パン、と手を叩いた。
「これ、澪奈にプレゼント」
椅子の上に置いてある小さな手提げから、なにやらラッピングが施された、平たい包装を取り出して。
はい、とわたしに差し出した。
「えっ。どしたの、突然……」
「前にお揃いで買ったハンカチ。事故のときに失くしちゃったって、わたしに一番に謝ってきたじゃん」
「……」
「この間見に行ったら、まだお店に同じの残ってたから、買っといたの」
「……有沙……」
思わずうるうるとしそうになり、きゅっと唇を噛んだ。
ありがとう、と小さく言って、ハンカチを受け取る。
ニシシと照れたような有沙の笑顔に、ザワついていたわたしの心が晴れ渡っていった。