Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「平石さんは、──タタラ、って名前に心当たりある?」
静かに前を見据えたまま、本条くんが尋ねてきた。
「聞いたことない。誰なの、その人……」
「いや、いい。知らないなら忘れて」
「っなに、どういうこと?」
「大丈夫。いったん、深呼吸して」
言われて、自分がかなりパニックに近い状態になっていたことに気がついた。
はっとして、ゆっくりと呼吸することに集中する。
遅れてじわりと涙が浮かんだ。
「前に、心配いらないって言ったでしょ。その言葉に嘘はないよ」
「でも」
「──絶対に守ってやる、つってんだよ」
車内の空気を震わせた、その強い響きに。
胸を突かれて、わたしは言葉を飲み込んだ。
「平石さんが俺の気持ちを汲み取ろうとしてくれてるのは、わかってるから。……今後は、一切、傷つけさせたりしない」
「──」
「だから、そのままでいて」