【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
 とはいえ、わたしは別にざまぁしたいわけではない。王宮の廊下ですれ違い、無視するわけにもいかなかっただけだ。

 王子妃教育は終わっているものの、わたしは結構な頻度で王宮に伺候している。王妃殿下に何かと呼び出されるのだ。だいたいは懇親を深める名目の、非公式のお茶会なのだが。

 セドリックは忙しいらしく、以前は数日に一度は伯爵邸に来ていたが、最近はあまり顔を見ていない。
 なんだか調子が狂ってしまう。さみし……さみしくなんか、ないんだからね!

 深く礼をするわたしを見下ろしていたエマが、「そうだわ!」と何かを思いついたような声を上げた。

「アーリア様、少しお時間をいただけませんこと? わたくし、王子妃の先達でいらっしゃるアーリア様のお話を伺いたいの」

 先達と来た。今、そのポジションにいるのは、あなたですけどね……。

「アーリア様もセドリック殿下と婚約されたのですもの。これから仲良くしていただきたいですわ」

「……かしこまりました」

 なんだろう、否応なく磨かれてしまった第六感がいやな警報を鳴らしている。
 でも、断ることはできない。相手は今や格上のご令嬢なのだ。





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