【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「ヒューバート殿下のご婚約者、タウンゼント侯爵令嬢エマニュエル様です。エマニュエル様、セドリック王子殿下でいらっしゃいます」

 図らずもふたりを紹介することになってしまった。

「初めまして、エマニュエル嬢。このようなお美しい方に出逢えるなんて、今日は女神のお導きがあったようです」

 セドリックは貴人らしく優雅に挨拶をすると、美しい笑みを浮かべた。
 そうしていると、本当に天使のような美少年だ。黄金色の柔らかそうな髪が、午後の日差しをはじいている。

 エマもぼうっとセドリックを見つめていたが、我を取り戻すと正式なカーテシーをした。初対面の挨拶がすむと、ふたりはやや打ちとけて話しはじめた。

「ヒューバート兄上と婚約されたと言うのに、今までお話できなくてすみませんでした。僕は早くお会いしたかったのですけど」

「わたくしこそご挨拶できず、申し訳ございません。なぜか許可をいただけず、まだハロルド様にもお目にかかれておりませんの」

 ハロルド様……会ってもいないのに、ずいぶん親しげだ。セドリックは気にもしていないようで、にこやかに続けた。

「ふふ、ヒューバート兄上が独り占めしようとしたのではないですか? こんなに可愛らしい方、ハロルド兄上にも見せたくなかったのでしょう」

「セドリック様はお上手ですわね」

 エマは白い頬を淡く染めて、気恥ずかしげに大きな紅い瞳を伏せた。少女のようなあどけない顔の横に、一筋たらしたピンクブロンドの髪が揺れる。
 その姿は、初々しさの中に咲きはじめた花の色香を漂わせ、危うい魅力を放っていた。

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