【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「あの、ヒューバート殿下がそこに」

「大丈夫。二人ともそれどころじゃないかんじだし」

 そういうことじゃない……と思ったが、すぐにあきらめた。

 セドリックが大きな瞳で、わたしを見上げている。
 仔犬のような無垢な瞳。

 本当は早熟で、ちょっとずるいところもある。
 何やら裏で計略も巡らせているらしいこともわかってきたけれど、やっぱりわたしは弱いのだ。わたしだけを見つめてくる、この瞳に。

 自分の中にある気持ちに気づいてしまった今となっては、なおさら。



 そう。
わたしはこの十歳も年下の少年のことを愛しはじめている。



 十もの大きな年齢差や、自分が彼の兄の婚約者だったことが今さら気になって、不安がこみ上げる。婚約までしているのに。

 でも、自分の気持ちはもうごまかせない。

「アーリア?」

「……はい」

「ふふ、赤くなって可愛い」

 目をつぶると、セドリックがそっとキスしてきた。軽く抱き寄せられる。

 そして、いつもの「ちゅっ」じゃなくて、少し長めの口づけ。

 わたし……。



「……セドリック、好き……」



「え、アーリア!?」

 わたしはついに言葉にしてしまった。

 セドリックが好き。

 頬に感じる体温が、耳もとで聞こえる少年の声が、愛しくて切なくて……。

 この瞬間のためだけにでも、乙女ゲームの世界に生まれ変わってきてよかったと思った。


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